<文章表現>舞城王太郎の『パッキャラ魔道』より

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<文章表現>舞城王太郎の『パッキャラ魔道』より
[2019年8月1日更新]


パッキャラ魔道
作者:舞城王太郎
出版日等 2004年
カテゴリ 現代もの&家族もの?

 出だしの勢いだけは一級品の舞城王太郎。
 なかでも本作『パッキャラ魔道』は、出だしの勢いと情景の迫力が抜群の、舞城王太郎らしさが凝縮された作品です。
 一文が非常識に長く、けれども口語体でリズムよく書き連ねているので、すらすら読み進めることができる不思議。

 八月二十日は日曜日で僕らは渋滞を避けるために朝の五時に起きてワゴンに乗り込んで甲州街道から中央道に乗って千葉へと向かおうと調布のインターをくぐって五分、六時十五分、高井戸の手前にやってきた僕たち四人(五人)の二十メートル前で、僕らのスバル・ドミンゴと同じく気分良さそうにすいすい走ってた白いカローラが何気なくくるっと一回転してからひっくり返った。後部座席からフトントガラスの向こうのまだ遠くの新宿高層ビル街を眺めていた僕も何してたんだか知らない直規もハンドルを握る父親も助手席の母も「あ」とひとこと言ってから、その意味不明の曲芸を始めたカローラが縦にぐるぐる大回転を始めて、でも鼻とおしりのバンパーを軽く地面にこするだけでほとんど宙に浮きながらぐるぐる、スピードを落とさずにまっすぐそのまま新宿方向に走っているのが優雅で静かなものだから、僕ら四人はなんとなく派手な運転はじめた奴がいるなあって気分で鑑賞してしまった。

「直規、動くな、ちょっとそこでじっとしてろ!奈緒子もシートベルトそのまま!」
 父親が言ってアクセルを踏んで硬直する僕たちを乗せたまま車が発進する。
 すると僕たちの車のどいた空間に間髪入れずにユーノスが飛び込んできたのだが、それが空からふってきたように見えてびっくりして後ろを振り返ると、つっこんできたユーノスのジャンプ台になったらしい屋根の押しつぶされたBMWが横を向いていて、ちょうどそこにバイクがズコーンと当たって黒いブルゾンの男の人がBMWのボンネットの上を滑って落ちてアスファルトの上を転がるのを僕は見る。

 また別の車がBMGにぶつかってこちらに飛んでくるんじゃないかと思って僕が振り返ると、黒いBMWの向こうに鉄の津波が襲ってくるのが見える。いすゞのギガがコンテナを横に振ってマークⅡとパジェロを巻き込みながらこっちに向かってくるのだが、(中略)甲高い轟音を立てて地面をひっかいている貨物トラックと乗用車とジープの合体した津波がその男の人たちを乱暴に飲み込んでしまうのが確実でうわーと思っていたら、その無惨な運命の二人に走る影があって、見るとそれは僕の父親だった。(中略)ウチの父親は走り方に特徴があって、どうも右足のキックが弱くてひょこひょことした印象になるし、両脇をぎっちとしめて直角の腕をほとんで振らないので、羽を失ったペンギンが右足を痛めたまま無理して走っているみたいでなんともぎこちない様子なのだが、でもそのペンギンが巨大で堅い津波に向かって果敢に走る様子はすごかった。

ひとこと

一文が長いのに、すらすら読めます。
どうしてかといえば、

[1]リズムの良い文章(口語体)。
[2]漢字が少ない(表意文字=漢字と、表音文字=ひらがな・カタカナがバランス良く使われている)。
[3]「どうでも良い」情報が明らかで(車の名称など)、さらっと読み流すことができる。
[4]情景が比喩で簡潔に説明されていて(鉄の津波など)、読み流しても困らない。

からかなぁと思います。
すぐにでも真似できる文体ですが、氏以外の人がしても、二番煎じだとか劣化コピーと言われるのは確定的に明らかという……。

なお、本作は2004年発表(小説雑誌掲載)ですが、単行本『イキルキス』に収録されたのは2010年です。
その間、氏のファンは雑誌や雑誌のコピーを持ってました。早く単行本にしてほしかったなぁ。

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